従業員の事故「聞き取り」のキホン

従業員の方が交通事故を起こしたとき、管理者の方はどのような事故だったのか「聞き取り」をすると思います。

そのときに使われるのが「調査票」です。

この「調査票」の内容に従って「聞き取り」を行う管理者の方は多いと思います。

「調査票」はたいてい「事故の概要」「反省点」「今後の改善方法」で構成されており、これを「報告書」として提出します。

記載されている内容はどれも必要なことですからね。

ですが、私は交通事故の聞き取りで「調査票」をそのまま使うのは「良くない」と考えています。

「調査票」の質問は当たり前の回答

調査票の内容を質問に変えてみると、

① 何故事故になったの?

② どのように考えているの?(反省しているの?)

③ 今後どうするの?

という感じでしょうか。 

これらの質問には、誰もが考えればわかる「当たり前の回答」が揃っています。

①は「駐車場でバックしたとき取引先の車にぶつけてしまいました。」

②は「取引先にも自社にも迷惑をかけ、大変申し訳なく思っています。」

③は「今後はバックする前に必ず車から降りて後方を確認します。」

調査票を基にした「聞き取り」は素早く報告書を作成するのに役立つでしょうが、事故の再発防止にはほとんど役に立たないでしょう。

管理者にしかできない「聞き取り」

事故を起こしてしまった従業員の方は、苦しんでいます。

また事故を起こすのではないか。次に事故を起こしたらどうなってしまうのか・・と、不安になっています。

「バックする前に必ず車から降りて後方を確認する」という方法は現実的ではありません。(毎回そんなことしている人は見たことがありません。)

具体的な解決方法がないまま「今後は気を付けます」とムリヤリ言わされているような状態です。

「聞き取り」のとき、管理者は「どうしたら次は事故を起こさないか」を一緒に考えてあげてください。

「調査票・報告書」は聞き取りの後で運転(運行)管理者がまとめて作成するのが良いと思います。

① 労う

まずは「聞き取り」の場所に来てくれたことを労ってください。

事故を起こしてしまった従業員の方は、まだ仕事を残したままか、労働時間外にここに来ているのでしょう。

「今回は大変だったね。明日の仕事に差し支えないくらいでいろいろ教えて。」

これは絶対に必要な言葉です。

その後の会話が全然変わってきます。

② 事故を本人を離し「客観的分析」を進める

「今回はどうしたの?」

①の何故事故になったの?という質問をしています。

「今回は」とは「いつもとは違う」というニュアンスで使っています。「いつものあなたらしくない」という言い方でも良いと思います。

管理者「今回交通事故を起こしたのはいつもとは違うあなたでしょう」「何がそうさせたの?」

従業員「打合せ時間ギリギリだったのです・・。」

この問いかけは効果的で、ネガティブな「交通事故」と本人を引き離すことができます。

交通事故を起こしたのは本人で間違いないのですが、「いつもの自分とは違う自分がいた」ことを意識させることで客観的に考えることができるようになります。

③ ひたすら共感する

管理者「ビックリしたでしょう」

従業員「車が止まっているなんて思わなくて・・ぶつけたことが信じられませんでした。」

②のどのように考えているの?(反省しているの?)という質問をしています。

ここが一番大切で、事故を起こしてしまったときの気持ちをたくさん聞き「共感」します。

もしかすると管理者の考えと違う発言もあるかもしれません。

でも否定せず吐き出させてください。

最低でも10分は「うん」「そうなんだ」「へぇ~」「大変だったね」と聞き役になってください。

「反省しているの?」なんて質問は絶対にダメです。

これまでの手順が一発で崩れます。

とにかく聞く。

ひたすら「共感」です。

④ 改善方法には一切介入しない

管理者「次はどうしようか?」

従業員「○○しようと思います。」

③の今後どうするの?という質問をしています。

「共感」しているので、従業員にとって管理者は既に「相談相手」になっています。

考えに自由度が増し「リバースに入れたらガッとギアが入るのを感じるまで待つ。そのとき後方を確認する。」など、その方にしかできない工夫が提案されるかもしれません。

ここで管理者がやってはいけないことは「工夫の否定」。

これから交通事故を起こさないように取り組むのは本人。

管理者は本人の代わりに運転することはできません。

自分で決めた方法が「いちばんよく」「いちばん実行できる」のです。

たとえその方法が管理者にとって「十分でない」ものであっても、他人に押し付けられた方法よりよっぽどマシなのです。