「危ない運転」なのに事故を起こさない人の不思議

スピードを出すのに事故を起こさない人が一定数いる

会社や事業所の運転管理をしている方なら「従業員の誰」が「どのような運転をしているか」なんとなく把握していると思います。


「せっかち」「ぼーっとしている」「注意散漫」「まじめすぎ」。

このようなバラバラの性格の人間たちを交通事故を起こさないように指導するわけなので、色々大変です。


特に「危ない運転」、例えば「車間距離を全然とらない」とか「狭い道路でもスピードを落とさない」というような傾向のある方は心配。

「そのうち事故を起こすよ。気を付けて!」などと言うのでしょう。

ところが、このような人たちの中に「全然事故をおこさない」方もいますよね。

おそらく「かなり危ない運転」をしているにもかかわらず、不思議とぶつけない。

これはいったいどういうことでしょうか。

「能力者」はどのような運転をしても事故を起こさない?

かなり古い心理学の研究ですが面白いものがあります。

事故をたくさん起こすドライバーと無事故のドライバー。

違反をたくさんするドライバーと無違反のドライバー。

これを4つに分けます。

①事故なし・違反なし
②事故なし・違反あり
③事故あり・違反なし
④事故あり・違反あり

そしてそれぞれの情報処理能力(選択反応時間ー単純反応時間)を比較しました。

するといちばん情報処理能力に優れていたのは、②の事故なし・違反ありのグループでした。(Fergenson1971)。

この結果から、②のグループのドライバーたちは、スピードを出したり車間距離を詰めるなどの「危ない運転」をしていても事故にならないのは、情報処理能力が優れているからだろう・・という考察がされています。

つまり「危ない運転をする人」=「交通事故を起こす人」とは一概に言えないということでしょうか。

「能力者」に対する運転指導のコツ

「すいません、コツンと追突しちゃいました」
「だから車間距離を空けろといつも言ってるじゃないか!」


このように痛い目に遭えば(事故は良くないですが)管理者としても指導しやすいです。

ですが「危ない運転をしていても事故を起こしていない人」は、対応がちょっと難しいですね。

私はこのような方を「能力者」と呼んでいます。

そして本人に「あなたは能力者である」ということを伝えます。

これは相手を否定するものではありません。

優れた情報処理能力が運転に生かされているということです。

しかしこの「能力」は常に発揮できるとは限りません。

体調がすぐれないとき、悩み事があるとき、年齢を重ねたとき。

こんなときは「能力者」であってもミスをするかもしれません。

そこまで理解してもらってから「じゃあこれからどのように運転しようか」という話になります。

車間距離とかスピードを落とすみたいな「当たり前の話」をするより「私は能力者だったのか!」と思ってもらう方が、もっと深い話ができます。