物流やタクシー・バス業界にとって明るい話になるか?
物流やタクシー・バス業界のドライバー不足が問題となっています。
その要因のひとつが若者不足。
学校を卒業したばかりの若者がこの業界に就職しにくいということがあります。
どうしてこの業界に若者が少ないのか。それは仕事に使う運転免許をとるための年齢制限があること。
中型免許は20歳以上で普通車など基礎免許の運転経験が2年以上、大型免許や二種免許は21歳以上で基礎免許の運転経験が3年以上なければ取得することができません。
学校を卒業して「俺はトラックドライバーになるぞ!」という熱い志を持った若者がいたとしても、大型トラックを運転するために必要な免許が21歳にならないと取れませんよ!では、就職しても21歳になるまでの3年間大型トラックにも乗れず、いったい何をすればいいのか?
そのうち仕事のやる気はなくなってしまいますよね。諦めて他の業界にいってしまうというというのは自然であり、そもそもこの業界に就職するのはやめようという流れもあったのです。
ところが、道路交通法改正によって、普通車などの基礎免許の運転経験が1年以上ある方は、決められた手順を踏めば19歳で大型免許や中型免許、二種免許を取得できるようになりました。
これは物流やタクシー・バス業界にとって未来が開ける明るい話ですよね!
ですが、この法改正の内容は複雑でわかりにくく、また理解しても「この制度は誰が使うのだろう?」とあれこれ疑問が頭をよぎってしまう内容でもあります。
今回は第二種免許や大型・中型免許が19歳で取得できるようになるという受験資格の変更と、その権利を得るために受けなければならない「特例教習」について紹介します。
大型トラックを運転するには「大人っぽさ」が必要だった
どうして第二種免許や大型・中型免許に、年齢と運転経験の制限があるのでしょうか。
これは警察庁のお話です。
まずは年齢ですが、これらの自動車を運転するには「様々な運転環境下や精神的負担が大きい運転の状況下において、旅客の安全確保を最優先にした運転ができることが必要であり、感情を制御する能力や客観的に自己を評価する能力など精神的な安定が必要であるから」ということです。
簡単に言えば、大切なお客さんや荷物を載せているので、自分の気持ちだけでイライラガタガタ運転するようではいけないと。
それができるようになるには18歳はまだまだで、「大人な運転」ができるようになる21歳くらいにならないとダメだよ!ということですね。
まあ、なんとなくわかります。
続いて経験ですが、これも警察庁を。
これらの自動車を運転するには「基礎的な運転が高い習熟度に達しているとともに、様々な道路環境下における危険を的確に予測し、適切に回避する能力が身についている必要がある」。
つまり知識だけの危険予測や回避能力だけではなく、実際の交通でそれができないとダメということです。
その能力を身につけるには、最低でも2~3年は運転しないと・・ということです。
まあ、確かに教習所を卒業して免許をとったらから「もう安心して運転できるようになりますよ」ということではなく、その後実際の道路を走って学ぶことのほうがはるかに多い気がします。
運転経験は確かに大切です。
このような理由で第二種免許、大型・中型免許を取得するには、年齢と運転経験の制限が設けられています。
ところが、令和4年からは、20歳以上とか21歳以上とされていた免許が19歳から取得できる。
運転経験が2年とか3年必要だった免許が、普通車などの運転経験が1年あれば取得できる。このようになりました。
18歳で普通免許を取った方が1年の運転経験を積んで19歳になれば、もうそれで大型免許などを取得することができるということですね。
え、これまでの大人っぽい運転が必要だとか実際の道路での危険予測が大切だって話はいったいどうなったのかしら・・?と思ってしまいますが、免許が早く取れるようになったということで喜ぶ方も多いはず・・。
そこの疑問は置いておきましょう。
しかし、この免許受検資格の変更は、誰に対しても行われるものではありません。
この変更を受けることができるのは、お金と時間を使って教習所などで行われる「特例教習」というものを受けた方だけ。
なんだか聞きなれないこの教習をすべて受けないと年齢・運転経験の制限は解除されないのです。
では教習所などで行われる「特例教習」とはどのようなものなのでしょうか。
「特例教習」とはなにか
この「特例教習」というものは日本全国統一のカリキュラムが決まっています。
すごく簡単にいうと、学科約5時間、技能31時間の教習を受けるということです。
技能教習31時間というのは普通車AT限定をとるのと同じくらいの時間です。
学科教習が少ないにしても、普通免許が取れてしまうくらいのボリュームがある教習ということですね。
特例教習の内容は、運転適性検査結果を基にしてあれこれ考えるものや性格に関するもの、教習中の運転を録画し振り返るもの。
あとはS字クランクを通ったり鋭角をやったり路上を走ったり運転シミュレーターで危険予測をしたりなど。
まあ、普通免許を取るときに教習所で行う内容にいくつかプラスされたものだと思ってください。
なんだ、そんなに特別なことをやるのではないんだと感じた方もいるかもしれませんが、この特例教習を受ければ、運転経験1年の19歳の方が第二種免許や大型・中型免許をその年齢でとれるようになる!
先程紹介した、21歳にならないとできないだろうと言われている「大人な運転」と、2~3年実際の道路を運転して得たのと同じくらいの運転経験が、身についてしまうというとてもすごい教習なのです。
「ほんとうにそんな力が身につくのかよ」と思うかもしれませんが、これは特例教習を受けてみなければわかりません。
とにかくこれを受ければ第二種免許や大型・中型免許を運転するための能力があるぞ!とみなされるわけで、ある意味絶大な効力を持った教習なのです。
この教習に関する料金ですが、学科教習が少ないとはいえ技能教習は普通車AT免許を取得するときと同じなので、おそらく25万円から30万円くらいだと思います。
このあたりは地域によっても変わるので、教習所の窓口に聞いてみてください。
そして特例教習はどの教習所でもやっているというわけではないようです。
なかなかの金額がかかりますし、もしかすると遠くの教習所に通わなければならないかもしれません。
特例教習を受けても免許取得までの道のりは遠い
さて、ここで確認しておきたいのは「特例教習」を受けても免許を取得するまでの道のりがまだまだ長いということです。
「特例教習」を受けて得られるのは「年齢・運転経験に制限のあった免許を受けることができるという受験資格」だけ。
特例教習を受けた後は、第二種免許や大型・中型免許を取るための教習や試験を、お金を払って時間を使ってまた別で受けなければなりません。
そして特例教習をうけても、大型免許の教習の一部が免除されるとか第二種免許の試験課題が一つなくなるといった「特典」は一切ないそうなので、そのあたりは期待してはいけません。
つまりまだまだ教習所に通わなければならないという事ですね。
特例教習後の免許取得手順は?
特例教習を利用した大型免許取得までの流れをイメージしてみます。
普通免許を持っている19歳の方。本来は21歳にならないと受けることができない大型免許を取ろうと思います。
まず教習所に行って大型免許受験資格を得られる「特例教習」を25万円だして受ける。
それが終わったら再び教習所に通い、38万円払って大型車の教習を受けて免許を取るということになります。
このようにすれば確かに19歳で大型免許をとることができます。
教習所には相当な回数足を運ばなければならないですよね。
そして最終的に大型免許取得までに必要な費用はざっと60万円以上。
さすがにお金かかりすぎ!私のような一般的な人間にとっては「受けてみようかな・・」と考えにくい内容です。
「特例教習」を受けて免許を取得する方が実際にどのくらい増えていくのかわかりません。
でも個人で60万円以上のお金を払い、19歳で大型免許を取ろうと考える志の高い方はなかなかいないのではないでしょうか。
この「特例教習」をどのような人が利用するのか。
新卒の方を雇用した大手企業がこの制度を利用して免許を取得させることがあるかもしれません。
18歳や19歳で入社した運転経験1年くらいの若いドライバーの方を教習所に送り込み、特例教習と免許教習を受けてもらってその次の年にタクシーやバス、トラックを運転できるようするということです。
本来ダメだった免許が取れるようになる本人たちにとって費用を会社が負担してくれるのであれば非常によいことです。
これまでは若くして入社しても年齢に達するまで免許がとれないため、会社としては他の仕事をやってもらうしかなく、本人たちもやりたい仕事が出来なくてモチベーションが下がる。
年齢が達するまでに退職する方もいるでしょう。若い人が物流業界などに入ってこないという状況です。
でも、これからの時代、大手物流会社に入れば、会社の費用負担で特例教習を受けて大型免許を取らせてもらえる!なんてことが増えていくかもしれません。
入社して1年ガマンすればドライバーの仕事ができるぞ!となれば、若い方がこの業界に入ってくることも増えるかもしれませんね。
免許取得後も気を付けなければならないことが沢山
この特例教習を受けて免許を取得した場合ですが、取得後も気をつけなければならない複雑な制度があります。
それは「若年運転者期間制度」というもの。
これは特例教習を利用して免許を取得した後、本来の免許を取ることができる年齢になるまでに一定の違反行為があると「若年運転者講習」を受けるようになるというものです。
一定の違反行為の点数は3点もしくは4点。わりと軽微な違反でも該当します。
これに該当したとき「若年運転者講習」(9時間)を受けないと、特例教習で受けた免許が取り消しとなってしまいます。
さらにこの講習を受けた後、再び一定の違反をするとこの場合も免許取り消し。
相当気をつけて運転しないと高いお金を払ってとった免許が簡単になくなってしまうということです。
「せっかく特例でうけることができた免許なのだから大切にしないとダメですよ」という制度がつづいていくのです。
会社に援助してもらって受けた免許なら、とても違反して取り消しになるなんてことはできなそうです。
でも19歳で大型免許をとってから21歳までの期間というと約3年。結構長いですよ。
この期間に毎日仕事で運転をしながら違反をしないで過ごすというと、かなり気を使うことになると思います。
これが安全運転につながればいいのですが・・。この制度を利用するのもいろいろ大変なのですね。