「まだ走れるだろ!」と怒る前に知ってほしい。予防的通行止めの裏側にある『集中除雪』の真実

皆さん、雪道での運転、自信はありますか?

昔の「雪の高速道路」といえば、「多少雪が降っても止まらないのが当たり前」 「規制が出たら、チェーンを巻いて走り切るのがドライバーの根性だ」。

しかし、今は違います。

雪が本格的に降る前に、予告して、計画的に、高速道路を完全に止める。

この「予防的通行止め」が、今や日本の高速道路の「標準装備」になりました。

なぜ、国やNEXCOは、「走らせること」ではなく、「止めること」を最優先にしたのか?

「物流を止めるな」という批判を浴びてでも、なぜ道路を閉鎖するのか?

その答えは、数年前に起きた「ある事件」にあります。

あの時、高速道路は、数千人を閉じ込める「氷の監獄」へと変わりました。

今回は、あの関越道・北陸道で何十時間も続いた「地獄の立ち往生」をきっかけに、なぜ高速道路を「止める」という判断をするようになったのか。

そして、今年の冬、もしあなたがその当事者になった時、どうすれば生き残れるのか。

ドライバーなら絶対に知っておくべき「高速道路と雪の真実」を解説します。

惨事の教訓なぜ必要か?数日間続いた「地獄の立ち往生」事件

すべてのきっかけは、2020年12月と2021年1月。

関越自動車道と北陸自動車道で発生した、あの大規模な立ち往生です。

記憶にある方も多いでしょう。

関越道では最大約2,100台。北陸道では約1,600台。

これだけの数の車両が、雪の中で完全に身動きが取れなくなりました。

恐ろしいのは、その時間です。

関越道では、解消までに約52時間。北陸道では約66時間。

つまり、丸2日から3日間、ドライバーたちは氷点下の車内に閉じ込められたのです。

当時の現場は、まさに地獄絵図でした。

燃料が尽きかけ、暖房が切れる恐怖。

トイレに行きたくても、外は腰まで埋まる雪でドアすら開かない。

配給の水や食料も、数千台の後方車両には届かない。

そして、最も恐れられたのが「一酸化炭素中毒」です。

寒さをしのぐためにエンジンをかけ続ける。

しかし、降り続く雪がマフラーを塞ぐ。

行き場を失った排気ガスは車内に逆流し、無臭の猛毒がドライバーを襲う。

実際に、この立ち往生では健康被害を訴える人が続出し、まさに「命の危険」がそこにありました。

この事件が、日本の道路行政を根本から変えました。

「もう二度と、高速道路上で人を閉じ込めてはいけない」

「立ち往生させるくらいなら、最初から入れない」

この痛烈な教訓から生まれたのが、現在の「予防的通行止め」なのです。

「予防的」の本当の意味と「集中除雪」

では、この「予防的通行止め」。

単に「危ないから閉鎖する」だけだと思っていませんか?

実は、その裏側では、壮絶なプロの戦いが行われています。

通行止めにする最大の目的。それはもちろん「立ち往生による人命リスクの回避」ですが、もう一つ重要な役割があります。

それが「集中除雪」です。

想像してみてください。一般車が走っている中での除雪作業を。

渋滞している車の脇を、巨大な除雪車がすり抜けることはできません。

車が1台でもスタックすれば、除雪車もそこでストップし、後ろの道は雪に埋もれていきます。

これでは悪循環です。

しかし、通行止めにして車をゼロにすればどうなるか?

除雪車は「全車線」を使って、隊列を組み、最高効率で雪をかき出すことができます。

さらに、凍結防止剤を道路の端から端まで、ムラなく散布することも可能です。

つまり、予防的通行止めとは、「逃げ」の策ではありません。

短時間で道路をリセットし、安全な状態で再開させるための「攻め」の作戦なのです。

台風の時の鉄道の「計画運休」と同じだと考えれば、分かりやすいかもしれません。

サービスエリアで待機は「NG」

ここで、多くのドライバーが勘違いしやすい「罠」についてお話しします。

「通行止めになるなら、解除されるまでサービスエリアで寝て待てばいいや」 こう思ったことはありませんか?

結論から言います。それは「NG」です。

予防的通行止めの場合、通行止め区間内のサービスエリアやパーキングエリアに留まることは、原則として許されません。

なぜなら、通行止めになった本線は、一般車両にとっての「道路」ではなく、除雪車や作業員が走り回る「工事現場」へと変わるからです。

そんな危険な場所に、一般の方を滞在させるわけにはいきません。

また、もしSAの出口が雪で埋まってしまったら?

あなたは電気も水道も止まるかもしれない孤立した施設に、長時間閉じ込められることになります。

そのため、通行止めが予告されると、SAでは係員による「退避誘導」が行われます。

「この先、通行止めになります。このSAも閉鎖されます。速やかに一般道へ降りてください」 そう促されたら、抵抗せずに従ってください。

そこに留まることは、あなた自身を危険に晒す行為なのです。

走行中に「通行止め開始」の時刻を迎えてしまったら、どうなるのか

あなたの車は、通行止め区間の直前にある「最後のインターチェンジ」で、強制的に一般道へと流出させられます。

「あと少しで目的地なのに!」と思っても、本線上のゲートは閉じられ、誘導員や警察官によって出口へと誘導されます。

さて、本当の勝負はここからです。 高速を降ろされた直後、多くのドライバーは焦ってナビ通りに動こうとします。

しかし、考えてみてください。高速から追い出された何千台もの車が、一斉に並行する国道になだれ込むのです。

当然、一般道は地獄のような大渋滞。しかも路面状況は高速道路より悪い。

ここで焦って無理に進もうとすると、今度は一般道での立ち往生や事故に巻き込まれます。

賢いドライバーの行動は一つ。

「まずは止まること」です。

ICを降りてすぐのコンビニや道の駅、安全な駐車場を見つけて、まずは停車してください。

そして、スマホで情報を確認する。

この先が進める状態なのか、それとも待機すべきなのかを冷静に判断する。

この「一呼吸」が、雪道での生存率を大きく分けます。

「通行止めは、いつ解除されるのか?」

これが一番気になりますよね。

実は、解除までの時間は「立ち往生車両があるか、ないか」で天と地ほどの差が出ます。

まず、計画的な「予防的通行止め」の場合。

これは、誰も立ち往生していない状態で除雪を行うため、早ければ数時間、長くても半日程度で解除されることが多いです。

2024年3月に関東で行われた予防的通行止めも、夜間に止めて、翌朝には解除されています。

一方で、事故や大雪で「立ち往生」が発生してしまった後の通行止め。

これは悲惨です。

雪に埋まった車を一台ずつレッカー移動し、その下を除雪し、また次の車を動かす……。

この気の遠くなるような作業が必要になるため、解除までに2日、3日とかかることも珍しくありません。

つまり、私たちが受ける「予防的通行止め」という不便は、数日間の通行止めを回避するための「必要経費」なのです。

ドライバーが通行止めに備える具体的な方法

大雪警報が出た時、あるいは通行止めが予測される時、取るべき行動はシンプルです。

まず大前提として、「出かけない」。

これが最強の対策です。

しかし、仕事や用事でどうしても外せない場合もあるでしょう。その時は、次の3つを徹底してください。

  1. スタッドレスは当たり前。チェーンを必ず積むこと。 「四駆だから大丈夫」「スタッドレスだから平気」は過信です。予防的通行止めが解除された直後でも、チェーン規制がかかることは多々あります。チェーンがないと、高速に乗ることすらできません。
  2. 燃料は常に満タンに。 立ち往生や渋滞で最も怖いのはガス欠です。メーターが半分になったら給油する。この習慣をつけてください。これが暖房=(イコール)命綱になります。
  3. 「非常食」と「簡易トイレ」を車内に。 いつどこで数時間動けなくなるかわかりません。水、カロリーメイトのような食料、そして携帯トイレ。これがあるだけで、精神的なパニックを防げます。

トラックドライバーをめぐる諸問題とは?

ここで少し視点を変えて、日本の物流を支える「トラックドライバー」の方々の現実に触れたいと思います。

彼らにとって、通行止めは単なる「遅れ」では済みません。

「命が大事なのはわかる。立ち往生で死ぬよりはマシだ。でもな……」

彼らが抱えるのは、「2024年問題」に代表される労働時間の規制、そして仕事と収入への不安です。

通行止めで一般道に降り、大渋滞に巻き込まれれば、到着は半日、一日と遅れます。

それは、彼らの貴重な休息時間を削り、「延着」という仕事上の失敗をすることになります。

「安全のために止まってくれ」という国の指示と、「荷物を届けろ」という荷主からのプレッシャー。

プロドライバーたちは、この板挟みの中でハンドルを握っています。

現在「予防的通行止めの報道等が行われた時点で運行を中止する」運送会社がどのくらいあるのか、正確なことはわかりません。

しかし、立ち往生のリスクが高いエリアでの運行や、警報級の大雪が予報された場合、大手やコンプライアンス意識の高い会社は、予防的に運行中止・見合わせの判断を下すことが増えています。

これは、運行強行による長期的な損失(トラックの損傷、ドライバーの疲弊、社会からの非難、行政処分リスク)が、一時的な運行中止による損失を上回ると判断されているためです。

中小の運送会社は大手に比べてより難しい判断となる場合が多く、対策が遅れがちな点がいくつか指摘されています。

運行できない場合に備えた、他の運送会社との広域的な連携や、 代替車両や緊急待機拠点となる別の営業所や倉庫の確保などが、難しいのです。

さらに、特定の荷主への依存度が高いケースが多く、安全を理由にした運行中止の判断が難しくなりがちです。

特に雪については「なんとか行けるだろう」という荷主の認識が低い場合があり、運送会社は取引継続への懸念から、無理な運行を強いられることがあります。

「計画的な通行止めが、運行中止を訴えるポイントになる」という意見もあり、徐々にはですが、対応は変わっていくことになるでしょう。

今年の冬も「予防的通行止め」はある?

今年の冬も、間違いなく「予防的通行止め」は実施されるでしょう。

気象予報の精度が上がり、国やNEXCOは、より躊躇なく、より広範囲で道路を止める判断を下します。

「数時間通行止めになる不便より、立ち往生で何十時間も車内に閉じ込められるリスクのほうが怖い」という考えがある程度浸透しており、「通行止め中に集中除雪が行われ、その後の交通再開が早まるなら納得できる」という、長期的な視点での評価が多いです。

一方で、「警報が出ても積雪が少なく、広範囲で閉鎖するのはやりすぎだ」「予報外れだったのに、生活に影響が出た」という、判断の厳しさへの批判。

また、「仕事終わりに帰宅しようとしたら、主要道路が閉鎖されており、帰宅できなくなった」という、開始時間などに対する不満を持つ人もいます。

今後、高速道路会社には、安全を確保しつつも、「なぜ閉鎖が必要だったのか」をより丁寧に、分かりやすく説明する努力が求められています。

「なんで大した雪じゃないのに止めるんだ!」「過剰反応だ!」と怒る気持ちはわかりますが、 それは誰かの怠慢ではなく、皆さんを「地獄の立ち往生」から守るための、ギリギリの判断なのですね。

情報は武器です。雪の予報が出たら3日前からチェックを始めましょう。

今年の冬も、安全運転で。 そして、物流を支えるすべての人に感謝しましょう。