
トラックの仕事で本当にキツいのは「長距離運転」じゃない
トラックの仕事で大変なのは長距離運転。世間ではそう思われています。もちろん、それは間違いではありません。
ですが、現役のドライバーなら一度はこう思ったことがあるはずです。
**「本当にキツいのは、そこじゃない」**と。
毎日違う積み下ろし現場。意味の分からないローカルルール。先の見えない待ち時間。走っていないのに削られていく体力と集中力。そして最後に待っているのは「事故は自己責任」という現実。
この記事では、積み下ろし現場のリアルと、無事故で家に帰るために本当に必要な考え方と技術を、現役ドライバーの視点でお話しします。これは愚痴でも精神論でもありません。あなたと家族を守るための、現場で使える話です。
積み下ろし現場に潜む「見えない苦労」
トラックの仕事の目的は、荷物を「預かり」「届ける」こと。一見すると単純な作業に見えますが、現場にはやってみなければ分からない苦労が詰まっています。
「簡単に積める」「すぐに降ろせる」現場はごく一部。ほとんどの現場は、複雑・危険・待つのどれか、あるいはすべてを兼ね備えています。そして、その中心にあるのが各現場独自のローカルルールです。
ドライバーを苦しめるローカルルールの正体
右折入場禁止が生む地獄の迂回路

初めての現場で「右折入場禁止」。ナビ通りに迂回すると、本当に入っていいのか分からない住宅街。狭い路地、交差点のポール、民家の塀。「一度入ったら戻れない」という恐怖で胃が痛くなります。
構内ルールは道路交通法より強い
構内では道路交通法は通用しません。あるのは担当者のこだわりや、昔からの慣習だけ。知らなければ注意され、最悪の場合は出入り禁止です。
入場許可証とバッジという無駄なリスク

受付で渡される入場許可証やバッジ。返し忘れたときのために、再び住宅街を大型トラックで戻るリスクを考えると、安全第一とは思えません。
通行禁止時間が生む「何もしない待機」

通勤時間や昼休みは構内走行禁止。11時55分に作業が終わっても、13時まで動けない。従業員が昼食に向かう姿をただ眺めるだけの時間が、拘束時間だけを削っていきます。
作業開始後も終わらない理不尽
現場ごとに違う安全装備ルール
ヘルメット、安全靴は当たり前。反射ベスト、袖まくり禁止、ズボンの裾を靴下に入れるなど、細かい指定が山ほどあります。
梯子問題に見る現場独自文化

「荷台への昇降は梯子を使用」。そのためだけに梯子を積むドライバーも増えています。道具を最小限にしたい現場事情と、ルールの間でモヤモヤが残ります。
ドライバーを最も追い詰める待ち時間
外で待て、昼休みだから13時まで待て。寝ることもできず、トイレにも行けず、ただ時間だけが過ぎていく。走っている時間より、止まっている時間の方が疲れる。ドライバーなら誰もが知っている現実です。
なぜこの状況が放置されてきたのか
理由は明確です。荷主と運送会社の圧倒的な力関係。「代わりはいくらでもいる」という構図。そして出入り禁止という最強の脅し。
ドライバーの真面目さと責任感が、この歪んだ構造を支えてきました。「自分が我慢すれば今日が終わる」。その積み重ねが、今の現場を作っています。
その先にあるのは「事故」
肉体疲労よりも危険なのは精神疲労です。ローカルルールを守ることに意識が向きすぎて、本当に大切な確認がおろそかになる。そして事故が起きれば、責任を負うのはハンドルを握っていたドライバーです。
事故を防ぐために「いい人」をやめる
今すぐできる唯一の方法。それは、いい人にならなくていいと腹を括ることです。
シングルタスクを徹底する
駐車措置、ヘルメット、降車、手袋、輪留め、伝票。ひとつ終わらせてから次に進む。マルチタスクは一見効率的に見えて、事故の元です。
優しさが一番危険
後ろを待たせたくない、リフトマンをイラつかせたくない。その優しさが焦りを生みます。待たせる権利は、ドライバーにもあります。
不愛想は命を守る鎧
作業中は淡々と。不愛想でいい。事故を起こすよりずっとマシです。
プロとして角を立てずに生き残る方法

作業が終わった最後だけ、しっかり挨拶する。「ありがとうございました」。それだけで、すべてが回収されます。これが現場で生き残る処世術です。
「いい人」を卒業して、無事に家に帰るために
誰かのために焦る必要はありません。会社のためにリスクを取る必要もありません。守るべきなのは、あなたと家族です。
どうか、いい人を卒業してください。図太く、したたかにハンドルを握ってください。
今日も無事に家へ帰ること。それが、この仕事で唯一の正解です。
明日もご安全に。
